ゆとりのなさを象徴する早口は現代人の特徴

明治が舞台の朝ドラを見ていて、主人公の早口が気になりました。
どうやら同じことを感じていた人が多かったらしく、
ネットニュースでは製作サイドの回答として、
現代チックなドラマの作り方が狙いであるため、
そのような早口でも構わないというようなことでした。
のちに外国人の妻になる主人公なのだから、
もっとゆっくりなほうがいいのに・・・
とは個人的な感想です。
それにしても、
最近の若い人に早口さんがすごく多い気がしませんか?
どの世代にも一定数いるとは思いますが、
親に似てそうなったとか、おしゃべりな子だったとか、
育った環境でそうなったという
予測できる範囲での数でした。
しかし今は割合で見ると格段に増えたような気がするのです。
日本の歴史を振り返ると、庶民は総じて早口で、
上流階級はゆっくり話すということが言われています。
このことが明記された古文書などは特にないようなのですが、
以前訪れた三重県多気郡にある斎宮歴史博物館での
ミニシアターで上映された平安時代の貴族の会話風景に
次のようなものがありました。
男性二人がごく平凡な日常の会話をしています。
例えば天気のことについて。
「本日はぁ~~~~~~~~~~~~~
日差しがぁ~~~~~~~~~~~~~
暖かくてぇ~~~~~~~~~~~~~
とてもぉ~~~~~~~~~~~~~~
気持ちがぁ~~~~~~~~~~~~~
いいですねぇ~~~~~~~~~~~~」
和歌を歌っている情景を想像してみてください。
まさにあのようなゆ~~~~~~~~っくりした
話しぶりなのです。
これだけでいったい何分かかるの?日が暮れるよ!
と呆れるほど「遅い」のです。
上流階級の人は何もすることがなく
毎日暇を持て余していましたから、
急いで何かをするということがなかったのですね。
反対に庶民は働くということがありますので、
「時間に追われる=急ぐ=早口」と直結していたのです。
生存のために早口になる、そのような見方もあるようです。
人間はいつの時代も良いものへの憧れがありますから、
ゆっくり話すことが少しでも雅に見せるための技として
捉えていました。
その証拠に、早口の対義語が存在しないのをご存知でしたか?
これは早口が良くないことと認識されており、
悪いことは戒めや注意の対象になるために
そうした言葉が必要とされたからです。
しかし逆のゆっくり話すことは良いこと
もしくはこれが普通とされていたため、
あえて対義語ができなかったというのが
背景にあるようなのですね。
同じように悪口と言う言葉がありますが、
その逆がないのも同じ理由ではないかと推測します。
つまり、早口であることは
貧乏人に見られてみっともないからやめなさい!
いうことなのです。
そうして現代を見てみると、若い世代に早口さんが多いのは
それだけゆとりがないということなのでしょうか?
これは持論ですが、
まずは親世代がすでにその片鱗を見せていて、
その環境内で育った若者世代が
今のこのデジタル化の進んだご時世で、
動画を倍速で見るということに
慣れてしまったことが拍車をかけた
のではないかと思うのです。
情報を自分から取りにいく時代になりましたから、
その情報源の中心にあるのが動画です。
たくさんの情報を得るためには時間が必要。
だから1.25倍速や1.5倍速が当たり前になってしまった
その影響が見ている側にも及んでしまっている気がします。
あるネットの書き込みに、この30年ほどで
アナウンサーの話すスピードが速くなったとありました。
つまり、今の若い人たちの親世代で
すでに早口化は進んでいたわけです。
では、その原因はいったいどこにあるのでしょうか。
それは
生活に余裕がない・せっかち・時間に追われる、
そうしたゆとりのなさが
日本人が急速に早口になってしまった
要因のような気がするのです。
これは日本の失われた30年
そのものに合致しますね。
そんなさほど重要とは思われない早口も、
よくよく分析してみれば
社会問題に深く関係しているようです。
ですが、これをどうするかは個人の問題。
特段早口でない人はしょせん他人事ですが、
もし自覚している人がどう捉えるかは
完全に個人の意思にかかっていますよね。
かくいうわたしは、実は早口です。
正確には早口でした。
昔、会社員時代に、退職直前の研修で
何人かの人に指摘されビックリしました。
「そうか・・・そんなにひどかったんだ・・・」
ですが時間が経って、
今では自分でYouTubeチャンネルも開設し、
編集で音声を何度も聞き返してみると
早口なのが信じられないくらいに
ゆっくりしゃべっているのに驚きます。
もっとスピード上げてもいいのに・・と思うほど。
実際のところ、
早口じゃなくて良いと褒められても
ゆっくりしゃべって悪いとは言われないものです。
早口は聞きづらい、
何言ってるのか理解がついていかない、など、
歴史から見ても共通しているのは
悪い印象ばかりですね。
話すことが仕事の一部になっている方も多いと思いますが、
早口の自分があえて言わせていただけるなら、
「早口は百害あって一利なし」
そのように感じます。